腹が痛い…

今日は祝・タイ1ヶ月!!日本を7月28日に発ったので、まるまる1ヶ月たちました。早いような短いような。お昼の後「今日はそれぞれのタイごはんベスト3を決めて日記に書こうよ」と話しながら歩いていると、細い路地から明らかにイカれてしまったようなおじいさんがトコトコ歩いてきて、ポールを見て言った。

「ははは、プンプーイ」

哀れなおじいさん。うちらをタイ語がわからない観光客だと思ったのでしょう。ポールが振り返って「You call me FAT!!」と言ったら、魂抜かれたような顔してた。ぜったいに息は止まってたと思う。そうです、プンプーイはタイ語で太ってるってこと。フロント娘たちが、こういう言葉をうちらに教えないわけないでしょ。でも、おじいさんは素でポールのことをプンプーイだと思ったんだと思う。表に出てきて最初に目に入ったものを見て「あはは、あいつ太ってるな〜」と思ったんだろう。きっと悪気なくポロリと口から出てしまったんだと思う。それを考えるとおかしくて、おかしくて、久しぶりにヒィーヒィー笑った。


その後、1度部屋に戻ろうと思ったら、ちょうどうちの部屋と隣の間にハウスキーパーの水やタオルを積んだカートが止まっている。隣のドアは開いている。きっと、ちょうどうちらの部屋は掃除し終わって、隣の部屋をいま掃除してるんだろう。口に出さなくても私もポールも同じことを考えていた。ここにも4週間も泊まってて、彼女たちのパターンは把握してしまったもんねー。ポールがシーと口に指をあてて静かにしろと合図した。知ってる人はわかると思うけど、絵に描いたような抜き足差し足で隣の部屋に近づき、ドア脇にピタリと張り付いた。ハウスキーパーの彼女たちとも仲良し。だから驚かそうとしてるのだ。映画のワンシーンのように頭だけ出してチラっと部屋を覗き、そして飛び上がり、逃げた!どうしたの?!

なんと部屋の中にはまだ住人が2人。しかも男性はイスラム教徒らしく、白装束姿で窓に向かって歯をみがいているところだった。あー、彼が入り口に背を向けてて本当によかった!ポールがチラ見したときは、窓に向かって歩いてるところだったらしい。

「もし彼が反対に歩いてたら大変なコトになってたよ!あー、こっちがサプライズだった…」

歯磨きしながら部屋を歩く人の心理は非常によくわかる。私も洗面所にじっとしていられない。洗面所に戻ろうとしたときに、見知らぬ人がドアから飛び込んで「サプラーイズ!」なんて言ったら、きっと一発なぐって警察に突き出すと思う。よかった、前の晩にダイ・ハードを見ていて。きっとブルースのマネをして、ポールはドアからチラ見したんだと思う。あー、本当によかった。でも、あのまま飛び込んでいたら…と想像すると、超おかしい。


夕飯の後に「バンドのいる店にいって1杯だけ飲んで帰る?」とポール。今夜はまだ仕事の途中だから本当に1杯でやめるだろうと思ったのでOKして、ポールが前からすごくおもしろいと言ってる店にいった。でも見るからに典型的なタイのバー。通りに面した部分はすべてオープンで、エアコンは当然ない。大きな扇風機が天井や柱のあちこちで回っている。いろんな国旗が壁や天井に張ってあって、中では素朴なタイの青年がギターをひいて控えめに歌っていた。「ここがおもしろいの?」と聞くと、おもしろいのはステージ近くの席で控えている2人組のバンドらしい。どうみても中年男性が青春を思い出してバンド再結成してみたよ、って感じ。1人のおじさんは髪を伸ばしてポニーテールしてるんだけど、髪が薄くなってしまったから、すっごく小さいちょんまげに見える。あぁ、結ばなきゃいいのに。

家の手伝いをよくしてそうな素朴な青年の演奏が終わった。恥ずかしそうに「サンキュー」と言って、丁寧にギターを拭いてからケースにしまう彼。このあと家に戻って、幼い妹たちを寝かしつけそうな感じ。ガンバレ、青年!

そして真打の登場だ。お客も増えてきた。あ、また一人入ってきた…と思ったら、その男はステージに近づき、あがり、ドラムの前に座った。えぇぇーーー!あんたメンバーだったの?!もっと早くきなさいよっ!特に音合わせやチューニングもなく、ポロポロとギターが鳴り始めた。1曲目は何かの映画音楽らしい。けっこうやるじゃん、おじさんたち!ポールより年上のおじさんたちは、楽しそうに聞いている。どこが「おもしろい」わけ?答えは2曲目でわかった。ちょんまげが歌いだしたんだけど何を言ってるのかわからない。モゴモゴ、ゴニャゴニャ。しかも英語の歌詞もめちゃくちゃらしい。これはヒドイ!
「彼、口をもっと開けたほうがいいんじゃない?」とポールに言うと、ポールは必死に笑いをこらえてる。本当の歌詞を知ってるだけに、彼らの適当ソングが相当おかしく聞こえるらしい。きっと私も日本のメジャーな歌手の歌をタイ人がマネして歌ってたら、笑っちゃうんだろうな。でもさ、自分の英語の発音もパーフェクトじゃないから、自分が英語の歌を歌ってもネイティブには変に聞こえると思う。そう考えると、あまりちょんまげのことも笑えなくなってきた。

するとサビの部分でハモりが入った!棒読みっていうか、棒歌いっていうか、決してハモってはいない。しかも途切れ途切れ。誰だ!へたくそ!ちょんまげ以外の2人を見ると犯人がわかった。ベースだ。天を仰ぐように顔をあげて、目を閉じて歌っている。ときには頭をふりながら…。ところがそのふりが大きくて、マイクから外れてしまうのだ。そんなこともわからないなんて、ひどい。なんて自己満足なバンドなんだー!

イライラしながら3曲目。ポールはもう彼らを直視できなくなって、下を向いて震えている。でもあんたが震えるとテーブルも震え、グラスのビールが震え、あんたが笑ってるのは明らかだ。ポールが耐えられなくなって「ヒィー!」と叫んだ。なぜなら3曲目の歌がめちゃくちゃ音痴だったから。これは、この前見たのど自慢よりひどい!誰だ!またメガネのあいつか?違う、犯人はドラマーだ!あぁ、ギリギリにやってきてこの歌声。本当にひどいバンド。近くに白人のおじいさんが座ってたんだけど、立ち上がって歌いだした。バーの女の子もふざけておもちゃのマイクを渡してる。
「絶対にお客さんのほうが彼よりうまく歌えるよね。」
「そんなのわかってる。これが何年も続いているんだ。それで彼らは10Bずつチャージするんだよ、このバンドのために。」なんてバーだ!!

でもおじさんたちは真剣に歌い、演奏している。本当にマジだ。なんだかだんだん、それはそれで味のあるバンドのように思えてきた。また途切れ途切れのハモりが入る。メガネは相変わらず上を向いてしまって、マイクで声を拾えていない。彼らがマジメに歌えば歌うほど、おかしくなってきた。4曲目はエリック・クラプトンの「Wonderful Tonight」。これは私も知っている。あー、なるほど。モゴモゴ&棒歌いでロマンチックな曲はみごとにお笑いになってしまった!本当に歌わなきゃいいバンドなのに。目を閉じて歌う彼を思い出すと、今でも思い出し笑いしちゃう。今日は笑いすぎて腹が痛いので、タイごはんベスト3は、また今度。